趣のある「暖簾」と能登の銘酒「宗玄」
本来なら、東京ぶらり散歩に真っ先に書きたかったエピソードである。
私たちの浜町公園前行政書士事務所を出て、清洲橋通りを清洲橋の方に向かって数歩歩いた先に、「神港」という1軒の居酒屋がある。
私が、今、ブログで書こうとしているのは、その居酒屋の料理のことではない。私は酒が強くないので、これまで一度もそのお店を訪ねたことはないが、ネットを見ると相当有名なお店のようで、肴が美味しいとか、お酒が美味しいとかの評判で溢れている。ちなみに、昼は定食もやっている。料理のことについては、皆さんがたくさん書いているので、そちらにお任せしたい。
私が書こうとしているのは、そのお店の入口に掛かっている暖簾(のれん)と、壁に貼ってある1枚のポスターのことである。昨年の10月、事務所の部屋を借りてすぐの頃、日本橋浜町の辺りをぶらぶら散歩しているとき、その暖簾が真っ先に目に入った。普通なら、目に留めることもないくらいの何気ない暖簾である。しかし、私には、まるで一つのシグナルのように目に入り、脳にしっかり焼きついた。その暖簾には、青の生地に非常に趣のある書体で白字で二文字染め抜いてある。
しかし、大抵の人は、この文字を簡単には読むことができない。過日、金沢の小料理屋で永年の友人と飲んだとき、その小料理屋の女将さんにアイフォンの写真を見せて、「何と書いてあるか読めるか」と尋ねたが、読むことはできなかった。その人は、酒を商売としている人にも拘らずである。
私はひと目見て直ちに文字も読め、瞬間的に体に電気が走ったような気がした。
前置きが長くなったが、その暖簾には「宗玄」と風雅な文字が染め抜かれていた。「宗玄」は、ブログを見ている皆様には馴染みがないと思うが、石川県・能登の銘酒の一つだ。お酒が好きな方には、周知の銘柄かもしれない。この風雅な文字は、この酒屋さんの純米酒のビンのラベルにも使われており、私には非常に風流な字体に思える。
石川県の地酒には、金沢の「福正宗」「日榮」、白山市には鶴来の「菊姫」「萬歳楽」、松任の「天狗舞」「手取川」、加賀市には「獅子の里」、「大日盛」、そのほか著名なお酒がたくさんある。能登にもこの「宗玄」のほか、「竹葉」「谷泉」「鹿渡」「池月」などたくさんのお酒があり、それぞれ酒好きの喉を潤している。この「宗玄」は、私が仕事に勤めて以来、かれこれ40年、馴染みの酒である。そのようなこともあり、私は「宗玄」と直ぐ読めた。
次いで、その暖簾の隣に並べて何気なく貼ってあるポスターに目が止まった。そのポスターは「一献の系譜」というドキュメンタリー映画の広告パンフレットであった。「一献の系譜」は、能登杜氏の酒造りの技術と苦労を能登を舞台(宗玄)にドキュメンタリーにまとめた映画で、2015年9月に公開され、非常に好評であった映画である。
(出所)映画『一献の系譜』公式サイト
この映画の企画は、宗玄酒造の社長さんである。余談ながら、私と同じ大学・学部の同窓であり、元は県庁マンということもあって、県職以来の友人である。さらに、県の観光セクションでも一緒に力を合わせて観光業務を推進したこともあるなど、今でも非常に懇意にしている。彼は県庁退職後、請われてこの宗玄酒造の社長さんに就任され、JR能登線の廃線跡のトンネルを酒蔵として酒造りに活かすなど、アイデアに溢れた経営を展開された。本当に素晴らしい活躍をされており、我がことのように、喜ばしい限りである。
いずれにしろ、思いがけず、私たちの浜町公園前行政書士事務所がこの日本橋浜町に立地しているのも、目に見えない不思議な縁があったのでないかと思う毎日である。
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浜町 神港
http://misaki-sinkou.jp/
(文/西川文明)