秩父市|秩父銘仙とお菓子な郷推進協議会
池袋駅から西武特急ちちぶに1時間半くらい揺られると、西武秩父駅に着きます。秩父市は人口約6万4千人、埼玉県北西部の盆地にあるため、夏は暑く、冬は寒く、1年間の気温差が40度もあるという市です。その気候の特色から、りんごが収穫できる南限、みかんが収穫できる北限に位置しています。
西武秩父駅の改札を出ると、駅前に「西武鉄道秩父線開通記念碑」と書かれた石碑があります。
この路線は、1969年(昭和44年)、秩父山系の武甲山から産出する石灰石を原料とするセメントの輸送のために建設されたそうです。
秩父銘仙|「ちちぶ銘仙館」
気温37度。額を滴る汗と戦いながら、駅から10分ほど歩くと「ちちぶ銘仙館」という秩父織物の記念館があります。
この記念館では、糸繰室、整経場、捺染室、織場と、織物が出来ていく工程を順番に見ることができます。「秩父銘仙(めいせん)」の歴史は古く、崇神天皇の御代に知々夫彦命が住民に養蚕と機織の技術を伝えたことが起源といわれています。大正から昭和初期にかけては、女性の手軽なおしゃれ着として全国的な人気を誇っていました。その頃は、養蚕業などを含めると市民の約7割が織物関係の仕事に関わっていたといわれ、 秩父地域の基幹産業だったようです。
いまでは担い手も減ってしまったため、記念館では展示のほか、後継者育成講座なども運営していました。
▶︎ちちぶ銘仙館:http://www.meisenkan.com/
地域産品ブランディング|「秩父お菓子な郷推進協議会」
今回、秩父に来たのは、実は織物の研究ではなく、地域産品のブランディングの先進事例を学ぶためです。秩父市では、市内にある17の小さなお菓子屋さんが集まって「お菓子な郷推進協議会」を作り、秩父山系に自生しているカエデの樹液からつくられる国産メイプルシロップ(秩父カエデ糖)を使ってお菓子を作り、モンドセレクション受賞という奇跡を生みました。
モンドセレクション銀賞を獲得した「ちちぶまゆ」は、国産メイプルシロップの味をじっくり味わうことができるマシュマロです。養蚕業の名残をのこした地元への愛情が感じられます。ちなみに、女性に大人気のパッケージは、地元の高校生が描いたそうです。
今回の訪問では、「ちちぶまゆ」を作った「秩父 中村屋」の中村雅夫さんにお話をうかがいました。秩父の奇跡には、カエデという資源の発見、国の山林政策と連動できたタイミングなど、偶然が重なったこともありましたが、その運を引き寄せて実現したのは「人」なのだと実感しました。打ち合わせを終えて、地元の小さな焼き鳥屋に行くと、自治体や民間のキーマンが集まってきて、ざっくばらんに話をしていました。飲み屋で会ったのも偶然とのことですが、そこには、人と人がつながって事を成していく風景がありました。
東京に戻り、中村さんからいただいたお土産のお菓子をいただくと、たしかに秩父の味がしました。
[参考]
「森を育てて、お菓子を創る 中村雅夫さん(埼玉県秩父市)」(旅ぐるなび)
埼玉県秩父市「お菓子屋さんの地域おこし」(総務省 地域創造)
(文/藤井祐剛)