遺言は、いつの日かこの世を去ることになったとき、残される家族に自分の想いを伝える最後の手段です。遺言を書く方の願いはさまざまありますが、「残された家族がお金のことで揉めないで欲しい」という気持ちで書く方も多いのではないでしょうか。遺言者の意思を残すことで、「相続」が「争続」(死後の相続争い)となるのを防ぎ、家族を守ることにもなります。
遺言の種類
遺言には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」に2種類がありますので、いずれかを選択することになります。
当事務所では、遺産分割で揉めない遺言という点から、「公正証書遺言」の作成をおすすめします。
●自筆証書遺言(民法968条)
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自分で手書きし、署名、押印して作成します。紙とペンがあれば、いつでもどこでも作成できるという点で、一番簡単に作れる遺言書といえます。
しかし、書き方は法律で定められており、必要なことが書いていない場合には無効となってしまうことがあります。また、本人の意思で作成したことを証明するのが困難であり、紛失・偽造などのリスクもあります。
●公正証書遺言(民法969条)
公正証書遺言は、公証人という専門家に作成を依頼して作成します。具体的には、遺言者が言ったことを公証人が書き、遺言者と証人2名以上が内容を確認して、それそれが署名押印します。
本人の意思で作成したという信用性が高い反面、作成に手間と手数料がかかるというデメリットがあります。
遺言事項
遺言に書くことができる事項は、民法で定められています。
①法定相続
②財産処分
③遺言の執行・撤回
④遺留分
⑤家族関係
⑥民法に規定はないが、遺言に記載できると解釈されている事項
⑦民法以外の法律で規定されている事項
たとえば、「残された家族みんなで仲良くして欲しい」など、遺言事項以外のことを遺言に書いても法的な効果はありませんが、「付言」として記載することができます。
「付言」には法的効果はありませんが、仮に財産分与は均等でなかったとしても、家族への想いは均等であったことを、残された方たちに伝えることができるという意味で、とても重要です。
遺産分割でもめない遺言のコツ
遺産分割でもめるのはどういうとき?
相続をきっかけに、すごく仲の良かった兄弟が、二度と口を聞かないような間柄になってしまうことがあります。遺産分割でもめる原因のひとつは、相続人が「ひょっとして自分が損をしているのではないか?」という感情を持ってしまうことです。
たとえば、相続財産の中に土地や建物などの不動産がある場合に、「一緒に住んでいる子どもに家をあげる」という内容の遺言を書くと、同居していない別の子どもが「自分は損をしているのではないか?」と感じるかもしれません。
また、子どものうち1人だけに留学のお金を出してあげていた場合、留学していない別の子どもが「自分は損をしているのではないか?」と感じるかもしれません。
これらは一例ですが、次のような事情がある場合は遺産分割でもめるリスクがあり、遺言を書く必要性が高いといえます。
② 特に多めに財産を譲りたい子どもがいるとき
③ 生前、特別に利益を得た子どもがいるとき
このようなケースでは、遺言の書き方にも注意する必要があります。
遺産分割でもめない遺言のポイント
それでは、残された家族が遺産分割でもめない遺言を書くには、どうしたらよいのでしょう。そのためには、次の3つがポイントとなります。
1)相続人の遺留分を侵害しない遺言を書く
遺留分とは、遺言によっても自由に処分できない財産の割合のことです。
たとえば、「愛人に財産を全部あげる」というような遺言を書いても、妻や子は遺留分にあたる財産については、愛人に請求することでもらうことができます。
愛人という極端な例ではなく、たとえ兄弟姉妹だとしても、誰かの遺留分を侵害する遺言を残すと”争い”の種をまくことになりかねません。
どうしても遺留分を侵害する遺言を書くときは、事前にしっかりと話し合うことが大事です。遺留分を侵害される相続人が納得すれば、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄してもらうこともできますので、あとで”争い”にならないよう、できる限り放棄してもらうとよいでしょう。
2)遺産分割をこうすると決めた理由をハッキリ書く
介護など老後のお世話をしてくれた子がいたら、他の子よりも多くの財産をあげたいと思うこともあります。
特に多めの財産をあげたい子どもがいる場合は、他の子どもたちが「自分は損をしているのではないか?」と感じないよう、次の3つをハッキリと書きましょう。
① 誰がどんなことをしてくれたのか?
② その行為はどのくらいの価値があるのか?
③ 感謝の気持ちと労力を考慮して、自分が財産の分割を決めたこと
この3点をクリアにすることで、「自分が損をしているわけではない」という納得感が生じることがあります。
3)付言事項に、自分がいなくなった後の家族のあり方を書く
遺言には、すべて自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人の力を借りて書く「公正証書遺言」があります。いずれの遺言でも、財産の残し方については法律で書き方の形式の決まっていますが、家族への想いやこれから家族にどうあって欲しいかなどを「付言事項」として書くことができます。
いざ遺言を書くとなると、財産の行く先だけに考えが集中してしまいがちです。でも、付言事項に、ご家族への感謝や、ご家族の未来のことを書いておくことで、遺産分割の”争い”を防ぐことができる場合があります。
未来につながる”遺言”のススメ
遺言というと、どうしても”死”を連想してしまい、縁起が悪いような気がします。相続人となる子どもからご両親に「遺言を書いて欲しい」とは、なかなか言いづらいものです。
勇気を持って遺言を残しても家族が争ってしまうこともあれば、遺言がなくても争いなく、法律で定められたとおりに財産が分けられることもあります。
でも、私は、一生かけて築いてきた財産をどうするか、家族にどのような想いを伝えるか、人生の最後の1マイルはご本人に決めて欲しいと思います。実際、遺言を書いたあと、残りの人生を大事にしようと思われる方は多いです。
よくあるご質問
A:相続は死後に発生します。「自分がいなくても争いが起きないか?」という視点から考えてみてください。もし、ご不安があれば、死後に自分の意思を伝えることができ、自分の代わりにご家族の話し合いをまとめてくれる遺言を利用することは有効です。
A:相続では、数億円あっても揉めないときもあれば、数百万円でも大揉めに揉めることもあります。ご本人が「たいした財産ではない」と思っていても、受け取る側は「たいした財産」と考えることはよくあります。額が小さくても揉めることはあるので、遺言を残す意味はあります。
A:遺言をつくるのは、思っている以上に心理的な負担がかかります。また、遺言を残すためには「遺言能力」(民法963条)が必要ですので、病気や高齢のときに残した遺言は向こうとなるリスクがあります。そのため、心身ともに元気なうちから遺言をつくることをおすすめします。
A:遺言が効力を発生するのは死後です(民法985条1項)。また、生きている間に、遺言に書いたことと違うことをした場合、その遺言は撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
行政書士がお役に立てること
わたしたちは、行政書士法第1条の2第1項、同第1条の3第3号に基づいて、遺言に関する次の業務を行うことができます。
・遺言に関するご相談
・「遺言書」の文案の作成
・「相続関係説明図」の作成
・「財産目録」の作成
・戸籍謄本、登記簿謄本などの請求
※行政書士は、争いが起きている遺産分割で代理人となることはできません。その場合には、連携している弁護士をご紹介いたします。
費用
遺言の種類 | 行政書士報酬 | 公証人手数料 |
自筆証書遺言 | 50,000円(税別) | 0円 |
公正証書遺言 | 70,000円(税別) | 数万円〜 |
※ 公正証書遺言を作成する場合の公証人の手数料は、遺言に記載する財産の金額と相続人の数によって異なります。詳細はお問い合わせください。