日本は起業しづらい国って本当?|手続きの簡素化と行政書士業務の未来予測
日本の起業環境
「日本は起業しづらい国」というイメージがありますが、実際はどうなのでしょう?
中小企業庁が「中小企業白書2017」の中で、世界銀行の「Doing Business 2017」をもとに、日本、米国、英国、ドイツ、フランスの5ヶ国について、起業環境の国際比較をまとめています。
(出所)「中小企業白書2017」, p.110, 中小企業庁
この表を見ると、日本は起業に要する手続数、起業に掛かる日数も多いのですが、他国と比較して開業コストが非常に高いことが分かります。実に、米国の7倍、英国の75倍です。
株式会社の設立で考えてみると、すべての書類作成や手続きを自分で行ったとしても、定款認証手数料[5万円]+印紙代[4万円]+謄本代[2,000円]+設立登記申請の登録免許税[15万円]で、合計24万2,000円程度かかります。このお金は、会社を設立するためのある意味使い捨てに近いものですので、負担感の大きいコストといえると思います。
法人設立手続きの簡素化
2018年5月13日付け日経新聞によると、法人設立に必要な手続きが簡素化され、起業までの期間が大幅に短縮されることになりそうです。
記事の要点をまとめると、次の3点がポイントです。
① 「定款」のスマホ認証(2018年度~)※ 従来は公証人との面談が必須
② 行政手続きのオンラインでの一括申請(2019年度~)※ 従来は法務局、税務署、年金事務所など、それぞれの機関で手続きが必要
③ 法務局での登記完了までの期間を最短1日に短縮(2020年度~)
このように、まもなく法人設立の手続きが簡素化するわけですが、私自身も仕事の中でそういう流れになってきていることを体感する機会がありました。
先日、お客さまから一般社団法人設立の仕事をご依頼いただいたので、定款の認証と役員の就任承諾書等の書類作成を私がやり、設立登記申請を提携している司法書士さんにやっていただきました。これまで、申請してから約1週間くらいで完了の連絡が来るというスケジュール感だったのですが、今回は申請した当日に完了の連絡がありました。5月下旬で法務局が空いていたという可能性もありますが、それにしても早い・・。すでに、法務局内では、登記業務の効率化は少しずつ始まっているのかもしれないと感じる一件でした。
それでは、手続きの簡素化によって、起業者は増えるでしょうか?
「手続きが面倒くさいから」という理由で起業に踏み出していなかった層は、もしかしたら起業に一歩を踏み出すかもしれません。他方、先ほどの「起業環境の国際比較」の図を見ると、起業希望者のハードルになっているのは、むしろ開業コストの高さです。本当に起業者を増やそうと考えるのなら、手続きの簡素化と同時に、定款認証手数料や設立登記の登録免許税などの減額を検討すべきなのではないでしょうか。
行政書士業務の未来予測
法人設立に関する定款の作成・認証と役員の就任承諾書等の書類作成は、行政書士ができる仕事です。このあたりの業務領域を中心に活動されている行政書士の方も多数います。起業支援に取り組む当事務所にとっても、法人設立は毎年それなりの件数をご依頼いただいている基幹業務の1つですので、今後、どのように取り扱っていくのがお客様の役に立てるか検討しています。
この点について、手続きの簡素化により、法人設立はすべて本人が自分でできるようになり、行政書士が仕事として関与する余地はなくなるのではないか?という見方もあります。しかし、私は、法人設立の業務が完全になくなることはなく、むしろ、手続きの簡素化を活用することで業務拡大のチャンスもあると捉えています。
特に、次の3つの類型の法人設立については、行政書士のビジネスチャンスとなるだけでなく、取り組む社会的意義も大きいと考えています。
- 外国籍の方の会社設立
- シニア起業の会社設立
- 非営利型の一般社団法人・一般財団法人の設立
当事務所でも、将来を見すえながら、この3つについては引き続き力を入れていきたいと思います。