【コラム】格差社会とシングルマザーの働き方
行政書士の仕事を通じて地域の方と出会ったり、児童養護施設の子どもたちを支援するNPO法人ブリッジフォースマイルの活動に取り組んでいる中で、日本にも経済的な格差や地域間の格差があると実感することがあります。
格差とは何か
目の前にあるようでいて、目には見えないーー「格差」とは何なのだろう?
社会における所得分配の不平等さを測る指標として「ジニ係数」があります。ジニ係数を使って、当初所得と再分配所得について、格差の推移を見ると興味深いことが明らかになります。
【図1】所得格差の推移
(出所)高田創「日本の格差に関する現状」2015.8.28.(税制調査会(第17回総会)配布資料17-4)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/08/27/27zen17kai7.pdf
「当初所得」とは、税金や社会保険料を支払う前の所得のことです。「再分配所得」とは、税金や社会保険料を引いて、公的年金のほか、医療、介護、保育などの給付を加えたものです。このグラフを見ると、当初所得の格差は年々大きくなっていますが、再分配所得の格差は2000年代に入ってからほぼ横ばいであることが分かります(図1参照)。
そうだとすれば、格差が広がっているというのはウソなのでしょうか?!
なんとなく生活の中で感じる肌感覚ともちがうし、所得格差に対する見方のアンケート結果を見てみると、76%が「格差は広がってきている」と回答しています(図3参照)。
【図3】所得格差に対する見方
(出所)高田創「日本の格差に関する現状」2015.8.28.(税制調査会(第17回総会)配布資料17-4)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/08/27/27zen17kai7.pdf
格差意識の正体
そこで、データと肌感覚のギャップの意味を紐解くために、一橋大学経済研究所の小塩隆士先生が発表している資料を見てみました(図4参照)。
【図4】所得分布の比較(再分配所得ベース)[所得再分配調査(2011 年)]
(出所) 小塩隆士「所得格差・貧困・再分配政策」2015.7.17, p.4.(税制調査会(第14回総会)配布資料14-4)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/07/16/27zen14kai5.pdf
グラフを見ると、1999年と比較して2011年は、再分配所得が400万円以下の層が大きく増えていることが分かります。
これは、貧困層の拡大や中間層の衰退、つまり、再分配所得の格差は拡大していないけれど、みんなで仲良く貧乏になってきていることを意味しています。それが、格差感や格差意識の広がりにつながっているといえそうです。
がんばるシングルマザー
さらに、具体的にどういう層が貧困なのか?を見てみると、「一人暮らしの高齢女性世帯」のほか、「一人親世帯(特にシングルマザー)」の相対的貧困率(54.6%)が高いことが分かります。OECD加盟国の平均値は10.6%(2008年)であることから考えても、54.6%という数値が極めて高いことが分かります。
また、子どもの相対的貧困率も16.3%(2012年)とOECDに加盟する34か国中で9番目に高く、特に「一人親世帯」の子どもの貧困率は51%(2010年)と、OECD加盟国中で最悪となっています。
【図4】子どもの相対的貧困率
(出所)高田創「日本の格差に関する現状」2015.8.28.(税制調査会(第17回総会)配布資料17-4)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/08/27/27zen17kai7.pdf
親の貧困と子どもの未来の可能性の関係について見てみると、親の収入が高い子どもほど四年制大学に進学し、低い子どもほど高校卒業と同時に就職する割合が高いことが分かります(図6参照)。
【図5】両親の年収と高校生の進路
(出所)高田創「日本の格差に関する現状」2015.8.28.(税制調査会(第17回総会)配布資料17-4)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/08/27/27zen17kai7.pdf
子どもたちの可能性を次世代につなげるために
以上のことから、親から子への貧困の連鎖を止めるためには、一人親(特にシングルマザー)に対する社会保障の支援を手厚くし、子どもの教育の機会を確保することが大切であるといえます。
同時に、シングルマザーが働きやすい環境づくりも重要です。シングルマザーは、子育てをするためにフルタイムの仕事を辞め、より賃金の低いパートタイムの仕事をせざるをえないケースがあります。そして、ひとたび非正規雇用になると、正社員として採用されるハードルが高くなり、デッドエンド・ジョブ(将来性のない仕事)に従事することで、キャリアを描く道を閉ざされてしまうことがあるからです。
シングルマザーが自分のキャリアを持つ働き方のひとつとして、前職の経験、資格、趣味などを活かして、起業するという方法もあります。
▶︎参考:
東洋経済ONLINE|シングルマザーには「起業家」という道がある 「不安」は新しい挑戦への強力な原動力だ
実際、私が活動する東京都中央区でも、趣味を活かしてカフェ、雑貨屋、フラワーアレンジメント教室をはじめる方や、特技を活かして片付け講座やマナー研修の講師をやっている方など、多くの女性が活躍しています。